不動産の売却を検討しているものの、何から始めるべきかお悩みの方も多いでしょう。
売却方法として一般的なのは「仲介」と「買取」の2種類です。
どちらの方法が適しているかは、物件や取引の条件によって変わります。
そのため、それぞれの特徴や取引の流れ、注意点を把握しておくことが大切です。
本記事では、不動産売却の方法や手順、必要書類など、基礎知識を分かりやすくまとめました。
発生する税金や節税方法も解説するため、納得感の高い不動産売却を実現したい方は参考にしてください。
不動産売却では、物件の条件や自分の希望にマッチした方法を選択することが大切です。
具体的な方法には、以下の3種類があります。
それぞれの違いやメリット・デメリットを見ていきましょう。
不動産会社に買主を探してもらい、一般の第三者に売却する方法です。
需要が高い時期を狙って売却すれば、高価格で取引できる可能性があります。
ただし、買主探しやさまざまな手続きが必要になるため、買取よりも売却までに時間がかかります。
また、特殊な条件の物件は、不動産会社に仲介を断られることもあります。
配慮すべき事項が多く、専門業者でないと扱いが難しいためです。
条件のよい物件で、かつ売却を急いでいない場合に適した方法といえます。
不動産会社に直接買い取ってもらう方法です。
買主探しや買主の住宅ローン審査といった時間のかかる手続きがないため、仲介よりも短期間で売却できます。
とくに、一般の買い手がつかない共有名義の不動産や、トラブルを抱えている不動産などは、専門の買取業者に依頼するのが賢明です。
以下のように、買取のメリットは多岐にわたります。
ただし買取では、売却価格が仲介よりも2〜3割程度安くなる傾向にあります。
価格よりも「売却の確実性」や「スピード感」を重視する場合に適しているでしょう。
共有名義の不動産を手放したい方は、以下の記事を参考にしてください。
内部リンク「共有持分 売却」
不動産の所有者が、直接買主を見つけて取引する方法です。
仲介手数料がかからないため、売却時の手残りを増やせる可能性があります。
しかし、法律に関する正しい知識を持たずに個人間売買を行うのは危険です。
専門家を仲介せずに交渉や契約を進めると、認識の違いや手続き上のミスが発生し、トラブルにつながるリスクがあります。
さらに、買主側の住宅ローン審査がとおりにくいことも個人売買のデメリットです。
リスクを軽減したい方は、不動産会社へ依頼することをおすすめします。
不動産の売却は、以下の手順で進めることが一般的です。
買取と比較すると、仲介は多くの手順が必要になることが分かります。
各ステップの詳細を見ていきましょう。
まずは、不動産が「いくらで売れそうか」を確認することから始めましょう。
相場価格が分かれば、不動産会社が提示する査定額の妥当性を判断でき、売却の意思決定をしやすくなるためです。
自分で相場を調べる際は、国土交通省や指定機構が運営する以下のサイトが役立ちます。
売却を検討している不動産が土地の場合は、以下のような価格でも相場を把握できます。
| 公示地価 | 1月1日時点における標準値の価格 |
| 基準地価 | 都道府県知事が7月1日時点で判定する基準値の価格 |
| 路線価 | 国税庁が決定する土地の評価額 |
ただし、上記で確認できる「売出価格」や「公示価格」は、実際に売れる金額とは異なります。
実態に近い価格を知るために、不動産会社の現地調査で査定額を算出してもらいましょう。
査定を依頼する不動産会社は、少なくとも3〜4社ピックアップしておくことをおすすめします。
業者によって、査定の根拠や得手・不得手が異なり、査定結果に差が出るためです。
複数社の査定額や対応を比較し、信頼できる業者を見極めましょう。
不動産の査定方法には「机上査定」と「訪問査定」があり、それぞれ特徴が異なります。
| 項目 | 机上査定 | 訪問査定 |
|---|---|---|
| 査定方法 | データ(物件情報や過去の成約事例など)をもとに査定する | 現地調査で実際の不動産を見て査定する |
| 特徴 |
|
|
不動産の価格は、建物の状態や土地の境界、日あたりなど、物件固有の事情によって大きく変動します。
そのため、現地を確認しない机上査定では、正確な査定額を算出するのが難しい傾向にあります。
売却時には訪問査定が必要になるため、売却する意思が固まっている場合は、机上査定を経ずに訪問査定を依頼してもよいでしょう。
なお、共有名義の不動産を売却するときは、共有者全員の合意を得なければなりません。
売却に反対する共有者がいる場合は、査定結果をもとに話し合いを行うことが有効です。
売却を依頼する業者が決まったら、不動産会社と媒介契約を結びます。
媒介契約には「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があります。
| 項目 | 共有持分割合 | 不動産売却への意見 | 不動産売却への意見 |
|---|---|---|---|
| 契約締結可能な社数 | 複数社 | 1社 | 1社 |
| 買主との直接取引 | ◯ | ◯ | × |
| 契約の有効期限 | 制限なし | 3ヶ月以内 | 3ヶ月以内 |
| 売主への報告義務 | なし | 2週間に1回以上 | 1週間に1回以上 |
物件の状況や希望を考慮し、どの媒介契約を締結するかを不動産会社と相談しましょう。
買取を選択する場合は、媒介契約の締結は必要ありません。
参考:媒介契約の種類|国土交通省
媒介契約を締結したあとは、インターネット上に情報を掲載したり、住宅情報誌に広告を出したりして、買主を探し始めます。
売却活動は不動産会社に一任できますが、購入検討者が現れたときは、売却物件の内覧対応が必要です。
検討者の購買意欲を阻害しないためにも、不用品の処分や掃除などを済ませておきましょう。
内覧希望は土日祝日に集中することが多いため、スケジュール調整に手間取る可能性があります。
売却物件を自宅として使用している場合、休日のたびに掃除をしたり、予定を空けたりする必要があるでしょう。
なお買取では、このような内覧対応が必要ないため、時間の節約やストレスの軽減につながります。
購入を申し出る人が見つかったら、不動産会社を通じて売却価格や引渡し時期などの条件を交渉します。
値下げを交渉されることもあるため、あらかじめ最低ラインの価格を決めておくのがおすすめです。
一定期間売却活動を続けても購入希望者が現れない場合は、売出価格の見直しが必要になります。
不動産会社のアドバイスを参考にしつつ、希望条件との折り合いをつけていきましょう。
買取の場合は、買主である不動産会社と直接条件を交渉し、話がまとまったらすぐに売買契約を結べます。
仲介の場合は「売主(自分)・買主・不動産会社」の三者で、買取の場合は不動産会社と二者で契約手続きを行います。
不動産会社が作成した売買契約書の読み合わせを行い、内容に納得できれば署名・押印します。
不明点があれば、このタイミングで担当者に質問しておきましょう。
売買契約の締結時は、買主から不動産の売却代金の5%〜10%程度を「手付金」として受け取ることが一般的です。
売買契約書で定めていない限り、決済と引渡しは同日に行われます。
引渡し当日に行うおもな手続きは、以下のとおりです。
住宅ローンを組んでいた場合は、抵当権抹消登記が必要になります。
抵当権抹消手続きにかかる費用の相場は1万円〜3万円程度で、売主負担となることが一般的です。
不動産売却で利益が出たら、翌年の2月16日から3月15日までの間に確定申告を行う必要があります。
譲渡所得(利益)を申告しなかった場合は、無申告加算税や延滞税が課されることもあるため注意しましょう。
マイホームや相続不動産を売却する際は、要件を満たすと税金の特別控除を受けられる可能性があります。
特別控除を受けるには確定申告が必須になるため、適用できる特例がないか前もって確認しておきましょう。
参考:確定申告を忘れたとき|国税庁
不動産を売却するときは、さまざまな書類が求められます。
用意すべきタイミングごとに、必要書類の内容を確認していきましょう。
それぞれ解説します。
査定を依頼する際に準備すべき書類は、以下のとおりです。
いずれも法務局で取得できます。
| 必要書類 | 詳細 |
|---|---|
| 登記事項証明書(登記簿謄本) | 不動産の情報が記載されている |
| 公図・測量図 | 土地の形状や接道状況を把握できる |
| 建物図面 | 建物の構造や配置が記載されている |
査定を依頼する不動産がマンションの場合は、上記に加えてマンションの管理規約や維持費関連の書類も用意しておきましょう。
書類が不足していても査定は依頼できますが、書類が揃っているほど査定の精度が高まります。
不動産の決済・引渡し当日には、以下の書類が必要です。
必要書類の中には必須でないものも含まれるため、事前に不動産会社へ確認しておきましょう。
不動産を売却すると、以下3つの税金がかかります。
| 印紙税 | 契約書などの文書作成にかかる税金 |
| 登録免許税 | 登記申請の際に課される税金 |
| 譲渡所得税 | 不動産売却で利益が出た場合に課される税金 |
ほかにも、仲介手数料をはじめとする諸費用がかかるケースもあります。
それぞれの内容や具体的な金額を見ていきましょう。
契約書や領収書などの文書を作成する際に課される税金です。
2027年3月31日までに作成された契約書のうち、契約金額が10万円を超えるものは、印紙税の税額が軽減されます。
軽減措置適用後の印紙税額は、以下のとおりです。
| 売却価格 | 課税額 |
|---|---|
| 100万円超〜500万円以下 | 1,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 5,000円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 1万円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 3万円 |
| 1億円超〜5億円以下 | 6万円 |
上記の金額は契約書1通につきかかるため、保管用などで2通作成する場合は、その分だけ印紙税が必要です。
参考:不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置|国税庁
不動産売却時の登記手続きにおいて発生する税金です。
登記申請は、以下のようなタイミングで必要になります。
各登記申請における登録免許税の税額は、以下のとおりです。
| 登記申請の種類 | 登録免許税額 |
|---|---|
| 売却による所有権移転 |
|
| 抵当権抹消 | 不動産1件につき1,000円 |
ただし、所有権移転登記にかかる登録免許税は、買主負担となることが一般的です。
売却時にかかる登録免許税は、譲渡所得を計算する際の「譲渡費用」に含められます。
参考:登録免許税の税額表|国税庁
不動産売却で利益(譲渡所得)が出た場合は、所得税や住民税が課されます。
譲渡所得の計算式と税率は、以下のとおりです。
| 項目 | 不動産の所有期間 | 税率 |
|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 5年超 |
|
| 短期譲渡所得 | 5年以下 |
|
具体例をあげ、譲渡所得の計算方法を解説します。
参考:土地や建物を売ったとき|国税庁
課税対象となる金額を計算する際は、以下の費用をそれぞれ求めます。
| 項目 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 売却価格 | 売買契約書に記載されている価格 | − |
| 取得費 | 不動産の取得にかかった費用から、減価償却費を引いた金額 |
|
| 譲渡費用 | 不動産を売却する際にかかった費用 |
|
一例として、以下の条件をもとに譲渡所得を計算してみましょう。
計算した結果がプラスになれば、譲渡所得税が課されます。
譲渡所得税率は、不動産の所有期間が「5年超」か「5年以下」の場合で変わります。
譲渡所得が940万円だった場合の計算例は、以下のとおりです。
| 長期所有(5年超)で売却 | 940万円(譲渡所得)×20.315%=190万9,610円 |
| 短期所有(5年以下)で売却 | 940万円(譲渡所得)×39.63%=372万5,220円 |
所有年数によって税額が大きく変わるため、売却タイミングを十分に検討することをおすすめします。
仲介を不動産会社に依頼した場合、取引が成立した際に仲介手数料がかかります。
法律で定められている仲介手数料の上限額は、以下のとおりです。
| 売買価格 | 仲介手数料(税込) |
|---|---|
| 200万円以下 | 売買価格の5.5% |
| 200万円超400万円以下 | 売買価格の4.4% |
| 400万円超 | 売買価格の3.3% |
たとえば、不動産を1,000万円で売却した場合の仲介手数料は、以下のように計算できます。
仲介手数料は、売買契約成立時に50%、引渡し時に50%を支払うことが一般的です。
不動産会社に直接買い取ってもらう場合は、仲介手数料が発生しません。
参考:不動産取引の仲介手数料について|国土交通省
そのほか、不動産売却では以下のような費用がかかることもあります。
| 費用 | 相場・目安 |
|---|---|
| 司法書士報酬 | 5万円〜10万円 |
| 住宅ローン一括返済手数料 | 3万3,000円〜5万5,000円 |
| ハウスクリーニング代 | 1K:1万5,000円〜 |
| 測量費 | 10万円〜60万円 |
| 解体費 | 3万円〜8万円(1坪あたり) |
居住中の不動産を売却する場合、引っ越しに伴う費用は見落としがちなので注意しましょう。
参考:不動産取引に関するお知らせ|国土交通省
不動産を売却するときは、譲渡所得税の特別控除を受けられる可能性があります。
適用条件に当てはまる特例があれば、手残りを大きく増やせるでしょう。
代表的な特例を、いくつか紹介します。
| 特例 | 概要 | おもな要件 |
|---|---|---|
| 取得費加算の特例 | 相続財産を売却した場合、相続税額のうち一定金額を「取得費」として加算できる |
|
| 相続空き家の3,000万円特別控除 | 相続した空き家を売却した場合、譲渡所得から3,000万円が控除される |
|
| マイホームの3,000万円特別控除 | 自宅(マイホーム)を売却した場合、譲渡所得から3,000万円が控除される |
|
各特例の詳細は、以下の記事で詳しく解説しています。
内部リンク「相続不動産 売却」
参考:相続財産を譲渡した場合の取得費の特例|国税庁
参考:被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁
参考:マイホームを売ったときの特例|国税庁
不動産売却において、見落としやすい注意点をまとめました。
スムーズな取引を行うために、詳細を確認していきましょう。
相続した不動産は、故人名義のままでは売却できないため所有権移転登記(相続登記)を行う必要があります。
相続登記の手続きに必要な書類は、以下のとおりです。
遺産分割協議が終わった段階で相続登記を済ませておくと、スムーズに売却できるでしょう。
相続した不動産を売却する方は、以下の記事も参考にしてください。
内部リンク「相続不動産 売却」
参考:相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先等|法務局
不動産の売却にかかる平均期間は、中古マンションで85.3日、中古戸建てで97.3日とされています。
築古の物件や、立地条件のよくない物件では、さらに多くの日数がかかることを見越しておきましょう。
とくに仲介による売却では、買い手探しや内覧対応など、時間のかかるステップが多数あります。
売却を急ぐ場合は「買取」の選択肢を検討しましょう。
参考:首都圏不動産流通市場の動向(2024年)|公益財団法人東日本不動産流通機構
共有名義の不動産は、共有者全員の同意がなければ売却できません。
以下のような「共有物へ変更を加える行為」は、民法第251条によって制限されているためです。
共有者が売却に同意してくれないときの対処法は、以下の記事で詳しく解説しています。
内部リンク「共有不動産 現金化」
ただし、自分の所有している部分(共有持分)のみであれば、ほかの共有者の同意なしに売却可能です。
たとえば、母・兄弟・自分の3人で不動産を共有している場合、自分の持分は母と兄弟の同意を得なくても自由に処分できます。
共有不動産はトラブルの火種になることが多いため、早期に共有状態の解消をおすすめします。
参考:民法第251条|e-Gov法令検索
スムーズな売却を目指すうえで、不動産会社の実績や得意分野の確認は欠かせません。
市場で需要があり、条件に問題のない不動産であれば、多くの不動産会社が扱ってくれるでしょう。
しかし、共有名義の不動産や瑕疵のある物件など、特殊な不動産は扱える業者が限定されます。
特殊な不動産の取り扱いに慣れていない業者を選ぶと、資産価値を適正に評価してもらえず、売却価格が大きく下がるおそれもあります。
売却予定の物件に精通している業者の中から、信頼性を重視して取引先を選ぶことが大切です。
不動産売却は、不動産会社に仲介を依頼する方法と、直接買い取ってもらう方法があります。
買取では、市場価格よりも売却額が低くなる傾向にあるものの、スピード感を持って現金化できます。
また、一般市場では需要がない、特殊な条件の物件でも売却可能です。
取引完了を急いでいるときや、条件のよくない物件を処分したい場合は、買取による売却を検討しましょう。
共有名義の不動産にお困りの方は、蔵正地所にご相談ください。
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この記事の監修者

小川 竜二 Ryuji Ogawa
蔵正地所株式会社/代表取締役
《資格》宅地建物取引士